注目してほしいけれど目立ちたくない【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第24回
森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第24回
【目立つ「迷彩」もある】
迷彩は目立たなくするため、と決めつけるのも、また誤解である。実際そうではない迷彩もある。たとえば「幾何学迷彩」、日本語訳は、「幻惑迷彩」である。
目立たなくするのではなく、見間違いを誘うようなカラーリング、あるいは塗り分けで、むしろ大いに目立つ。これも、人の目を想定したもので、かなり古く(第一次大戦くらい)からある。興味のある人は検索しよう。艦船に施された例が見つかるはず。また、戦闘機などにも幾何学迷彩があって、こちらは「フェリス迷彩」が有名。
人の錯覚を利用した類似のものとして、最近になって登場した3D標識などが挙げられる。平面に書かれた絵が浮き上がって見え、ドライバをギョッとさせる効果を狙ったものだ。これもカモフラージュといえるけれど、「迷彩」には含まれないだろうか?
ファッションにも、迷彩は取り入れられた。僕が若い頃に、カーキという色が流行し、同時に迷彩柄のものが出始めた。「カーキ」は「泥」のこと。カーキ色というと、黄土色だと認識されているようだが、灰色や燻んだグリーンも含まれるように思う。プラモデルのカラーで、モスグリーン、ダークグリーン、マッド、アース、オリーブドラブなど多数の塗料が販売されている。これらを2、3色使って塗り分けると「迷彩」が出来上がる。
ファッションで流行となったのは、これらのカーキや迷彩柄が当時は「目立った」からだ。本来の性能の正反対の効果を狙った点が面白い。
動物のカラーリングに注目してみよう。トラやシマウマの柄は、目立たないものだろうか? ヒョウなどは、戦車の迷彩に近い。シロクマが白一色なのも、迷彩といえるかもれない。派手なカラーリングは鳥に多いが、隠れるつもりはなく、むしろ相手を怖がらせるためのカモフラージュだろうか。
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森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。
〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。